メゾン・ケンポクの何かはある2021 総評 「メゾン・ケンポク」はどこにある? 岡野恵未子(アーツカウンシル東京)

2021/10/15 総評

アートプロジェクト「メゾン・ケンポクの何かはある2021 記憶を頼りに進む」が、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響を受けつつ、2021年の2月から3月にかけて開催された。茨城県県北地域を舞台に、展示や上映会、オンラインワークショップ、リサーチ活動の成果展示など、10ほどの企画を担ったのは、県内在住のアーティストや、アートスペース「メゾン・ケンポク」で様々な活動を行うコミュニティ「メゾン・ケンポクのチーム」。プログラムによってはオンライン化や、事前予約制への変更などを経て、それぞれができることをできる方法で行う、というかたちとなった。

「メゾン・ケンポクの何かはある(以下、「何かはある」)」は、茨城県北地域おこし協力隊の松本美枝子(写真家)が中心となって企画している。前段として、2018年はリサーチプロジェクト「茨城県北サーチ『何かが道をやってくる』」を実施。2年目の2019年は「何かはある」の初回として、前述の「何かが道をやってくる」をはじめ、展示やZINEの発行、円卓会議型のトークイベントなどのプログラムを、様々なバックグラウンドを持つメンバーが実施し、プロジェクトを通じて育まれてきたコミュニティや文化資源を可視化した。
3年目の今回もやはり、多様な担い手がそれぞれの手法でリサーチや制作、トライアルを行っており、プロジェクトの多層性がさらに感じられるプログラムであったように思う。また、それらが、無理にパッケージングされることなく、等身大のまま、のびのびと、フラットに提示されている面白さがあった。
映画監督の鈴木洋平は、社会状況に応答するように、出演者がたった一人の映画「骨格」を制作し、本プログラム内で試写会とトークイベントを実施。制作チームは「チーム骨組」と自らを名乗り、制作を支えた。「チーム骨組」のメンバーでもある写真家の山野井咲里は、撮影現場の日常を記録したスチル写真展を実施した。松本は、偶然に出会った同名の人物の“語り”から着想を得たサウンドインスタレーション《小さなミエコたちのはなし》を展示。松本と同じ茨城県北地域おこし協力隊の日坂奈央は、東京と茨城の2会場で作品を展示・販売したほか、写真家の仲田絵美とユニット「nimono」を組み、お互いの共通テーマである「服」や「着ること」をテーマにしたオンラインワークショップにも挑戦した。美術家の中﨑透は、自身に縁のある県北地域のあるエリアを“みんなで歩いてみる”ワークショップをオンラインで開催。「メゾン・ケンポクのチーム」は、前述の松本の作品制作に並走しながら、独自に、県北地域の戦中の文化に関するリサーチ活動や、絵画・映像の制作、通年で実施している「読書会」の活動をオープンにした企画等を行った。また、これら企画のキックオフ時には、松本・日坂が通年で行っている活動の一つである、県内のアート系地域おこし協力隊員らのネットワーキングのメンバーを中心とした「Meets KENPOKU アートミーティング『円卓会議』」も実施され、県内外から関係者が集った。

ざっと要点を述べただけでも、「何かはある」を結節点として、多様な「つくられかた」が集積していたことが感じられる。良い意味でばらばらとした印象も受ける一方で、共通して、その「制作行為」の延長線上にある「(作り手らの)日常」を感じる企画も多かったように思う。それは、コロナ禍での、他人や自分自身との距離感から自然発生的に生まれたものか、もしくは、「生活文化」に近い対象とも向き合う、このプロジェクトのフレームの広さゆえか。
表現や文化と日常がごく近い場所に(もしくはまさに日常のなかに)あるとき、どこからが表現で、どこからが表現ではないのか、その境界は日常に溶け込み、必然的に目に見えにくいものとなる。その、境界の見えにくさは個々の企画だけではなく「何かはある」や「メゾン・ケンポク」というプロジェクト自体にも当てはまる。

-どうやって、“本当に面白いもの”を、地域の人たちと面白いと感じて、続けていくのか。
-“面白いことやってるよ”って、大げさにパッケージして伝えるのも違うし、その一方で、“知られていないから評価されない”というもどかしさもある。
(松本美枝子)

松本は「メゾン・ケンポク」を「社会実験」と呼ぶ。いかに自然な場所で、文化活動を、多様な人々と、実践していくのか。専門化された領域や、個々人のバックグラウンドを一度フラットにした場所で「文化活動」を行うときに、何ができるか/何が起きるか、と問い直す姿勢は、どこか「歴史する(※)」という姿勢とも共通するものを感じる。

※歴史学者の保苅実が用いた表現。「日常的実践のなかで、身体的、精神的、霊的、場所的、物的、道具的に過去とかかわる=結びつく行為」に着目し、そうした歴史実践のあり方を「歴史する(doing history)」と表した。(保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー―オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』岩波書店、2018年)

「メゾン・ケンポク」や「何かはある」の輪郭を、どうやって、どの塩梅で、かたちづくっていくか。その挑戦の一つが、「メゾン・ケンポク」のウェブサイトで始まっている。各プログラムに対して、県内外の実践者や研究者がレビューを執筆し、それらをウェブサイトで公開するという試みを2020年にスタートさせたのだ(現在、2019年度の企画のレビューが掲載中)。人に目撃され、それぞれの視点からプロジェクトを言語化してもらう仕組みは、単なる記録ではなく、結果的に色々な人がプロジェクトをかたちづくっていくような側面も持ち合わせているように思う。

「メゾン・ケンポク」は、どこにある?それは、活動し、それを記録し、価値化し、共有化しながら、見えてくるかもしれない。今回の「何かはある」は、その試みに向けたスタートラインに立っていたのではないだろうか。

メゾン・ケンポクの何かはある2021 ー記憶を頼りに進む
会期:2021年1/22(金)〜3/14(日)
(新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、一部プログラム延期により会期変更)
場所:メゾン・ケンポクと茨城県北各地ほか

主催:茨城県北地域おこし協力隊
協力・後援:茨城県、WALL原宿

企画:松本美枝子
企画補佐:日坂奈央、メゾン・ケンポクのチーム

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