メゾン・ケンポクの何かはある2021 レビュー 鈴木洋平ほか《映画「骨格」試写会+トーク》
山野井咲里《映画「骨格」スチル写真展》
アート・プロジェクトの「骨格」
西野由希子(文学者、茨城大学人文社会科学部教授)

2021/10/15 みる

 2021年2月13日。短編映画「骨格」の試写と、上映後のトークの会が開かれた。会場は、「メゾン・ケンポク」の大広間。試写会場へとあがる階段の前のフロアでは、この映画に関わるスチル写真の展示も行われていた。
 「メゾン・ケンポクの何かはある」は、2020年度の第1回、そして2021年度、第2回の今回と、地域に開かれたアート・プロジェクトとして企画されていて、「鑑賞者」が、「完成して、展示されている作品」を見るというような作品展とは一線を画している。創作の過程の公開、ワークショップの開催、協働による作品制作など、創作活動の共有とそれに基づく対話によるプロジェクトとして全体が設計されている。映画「骨格」に関わる企画もこのプログラムの重要な1つとして位置づけられていた。
 映画作品について、試写、あるいは上映が行われ、その後に、監督や出演者、関係者によるトーク企画が開かれることは現在、それほど珍しいとは言えないだろう。作品のPRを目的としたり、ファンサービスの意味で開かれたり、完成報告・披露として開かれたりする。しかし、本プロジェクトの場合は、そういったものとも異なる。作品の着想から、制作過程、そして、試写会、トーク企画、スチル写真展のすべてが、プロジェクトとしての活動であり、すべてがオープンに開かれていたと言ってもいい。私の勝手な思いも重ねて言えば、この、映画に関わる活動は「メゾン・ケンポク」のさまざまなアート・プロジェクトのまさに「骨格」であり、それを生々しく、手に取り、目に見えるように展開してくれていると感じた。
 山野井咲里さんの撮影した写真の展示は、上映前に見た時と、上映とトークイベントの時間が終わってから改めて見た時では、見方が変わり、受けとめるものが変わる。私自身は、上映前は、これから見る映像の一部を先に見るというわくわくした気持ちや、映像撮影の現場の雰囲気を垣間見る楽しさで、写っているものを見るという見方をしていたのだと思う。山野井さんご本人が、展示の場で説明をしてくれて、いろいろ考えて写真を配置したことを教えてくれたのだけれど、その発言の意味が本当にわかっていたとは言えなかった。写真展示としてのおもしろさを実感できたのは、上映会後で、写真家・山野井咲里さんがどういう角度で何を映そうとしたか、それをどのようなストーリーで、写真展示として構成しているのか、自分なりに得心するところがあり、実におもしろかった。
 短編映画作品としての「骨格」については、映像による散文詩と評したい。人間の具体的な身体ー肌、皮膚、腕、動作、・・・を映し出しながら、その人物のこれまでと今置かれている状況とが見えてくる作品だ。悲しみ、迷い、苦しみなど心の揺れも感じられるのだが、硬くて、強く、変わらない、譲れない、そういう何かが人にはあるだろう、あるはずだという不思議な確かさも伝わってくる。わかりやすいとは言えないが、独特なテンポとトーンで語り続けられるナレーションの効果なのか、見終わってから、案外に明るい感じが心に残る。前衛的な作品は解釈が見る人にゆだねられるから、私の感想、印象が他の方たちと同じだったかどうか自信はないが、だからこそ、自分の感想を話し、ほかの人の感想を聞きたくなる。今回のトークショーは、出演者、制作者側の話が中心で、フロアからの質問へ答える時間も設けられていたが、見た人たちの感想や意見をもっと聞いてみたい気持ちもあった。
 大丈夫。開かれたアート・プロジェクト「メゾン・ケンポク」の今後の継続した活動の中で、きっとその機会はあるだろう。今回の上映では、まだ完成されていない、という説明だった作品「骨格」の披露・公開も、楽しみに待ちたい。

メゾン・ケンポクの何かはある2021 ー記憶を頼りに進む
会期:2021年1/22(金)〜3/14(日)
(新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、一部プログラム延期により会期変更)
場所:メゾン・ケンポクと茨城県北各地ほか

主催:茨城県北地域おこし協力隊
協力・後援:茨城県、WALL原宿

企画:松本美枝子
企画補佐:日坂奈央、メゾン・ケンポクのチーム

映画試写会+トーク|映画「骨格」(13分) 監督:鈴木洋平、主演:廣田朋菜、撮影:松本美枝子、助監督:ルー・アンドレアス、照明及びスチル撮影:山野井咲里、制作:佐々木恭子
日時:3/14(日)開場18:30 上映19:00〜 トーク19:20〜20:00
場所:メゾン・ケンポク(常陸太田市西一町2326)   
入場料:1000円
定員:15名(要予約。予約方法は文末の「プログラム予約について」をご覧ください。)
コロナ禍でも制作可能な、かつ上質な映画を目指し、映画監督・鈴木洋平と、写真家の松本美枝子ほか4名のチームで、今夏、茨城県北地域で制作された短編映画「骨格」。プロジェクトの経過報告として、本作をメゾン・ケンポクにて試写します。また上映終了後、この映画の方法論について、鈴木監督とチーム「骨組」によるトークを行います。

映画「骨格」スチル写真展 山野井咲里(フォトグラファー)
日時:2/23(火・祝)〜3/14(日)10:00〜17:00 *月休み
場所:メゾン・ケンポク(常陸太田市西一町2326)
写真で観る、映画「骨格」。今年7月、日立市にて行われた映画制作を、山野井咲里によるスチル写真と撮影現場の記録とで振り返ります。ぜひ試写と合わせてお楽しみください。

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