3年目隊員サポートのためのネットワークプログラム 3年目隊員のサポートプログラムを終えて 松原功(茨城県北地域おこし協力隊マネジメント事業メンター)

2022/04/1 マネジメント事業サポート

地域おこし協力隊導入の効果の一つとして、「地域住民が増えることによる地域の活性化」を総務省は示している。その地域で人口が増えることは、地域にとって非常に大きな力となることが考えられる。退任後に定住するか否かは、本人の人生でもあるため、その意思を尊重するべきではある。しかし、地域の活力の持続性を考えれば、定住または関係人口になることが、その地域や住民にとって嬉しいことであるには違いがない。
茨城県では、地域おこし協力隊の定住率が、2021年度の調査で約6割と、上昇傾向にあり、これも制度にかかわるステークホルダーの努力の賜物といえるだろう。定住を考えるうえで、重要な要素は、「住み家・しごと・関係性」の3つが考えられ、どれか一つでもかけてしまっては、継続して住み続けることは困難を極める。

その前提を踏まえながら、茨城県北マネジメント事業では、地域おこし協力隊の退任後の定住や仕事づくりにおいてサポートするために、メンター制度を導入することにした。内容は、任期3年目を迎える隊員に対し、地域おこし協力隊OBOGが定期的な面談を行い、退任後の定住やライフスタイル、生活する上での困りごとに対して相談・助言・励ましをおこなうこととした。任期後の本人の意思を尊重しながら、スムーズに任期地である地域に定住または関係性を保ちながら、その地域への関わりしろを増やすことを目的とした。

今回は常陸大宮市で2019年度から活動を開始した古澤宏明隊員を対象とし、月1~2回程度の面談を実施。

古澤隊員は、面談当初より定住の意思を漠然と示しており、年数は決めていないが、継続して現在の住まいに住むことを考えていた。一方で、仕事づくりにおいては、本人の希望があるものの、現在の協力隊活動と大部分が重ならないこと(ライティングやウェブマーケティング等)を目指しており、退任までの1年間で、協力隊活動と並行して、どれくらいスキルアップを図れるか、また副業としてどれくらいの稼ぎを得られるかといった点に重きを置き、面談に臨んでいった。面談の初期では、定住するか否かの意思を再確認したり、仕事づくりにおいて、具体的な内容や収入を得ることへのイメージや稼ぎたい金額、また目標や目的といった指標をもって活動することへの意義といったことを、対話を通してお互いにイメージをすり合わせていった。面談中期では、普段の生活や協力隊活動に関する困りごとや活動をおこなったことでの振り返りを含めた内容を共有し、残り少ない期間で、最大限地域活性へ力を発揮できるよう本人への励ましやフィードバックをおこなっていった。また、仕事づくりに関しては、具体的な目標を設定し、その達成状況を次回の面談で共有することをおこなった。目標の具体的な内容は、ウェブマーケティング、とりわけブログの執筆記事数など、客観的に数値として評価しやすい、かつ、協力隊の活動にも支障が出にくいものを対象とした。その結果、数字として見える部分があることで、古澤隊員本人も自己の進捗状況を把握しやすくなり、モチベーション維持にもつながることになった。任期を3か月残してからは、月に2回の面談を実施し、より目標へコミットすることへ注力した。ブログの執筆記事数といった数値目標に加え、実際に収入を得ることに対しても目標を定め、仕事の実績づくりも面談を通して、考えを共有しフィードバックをおこなっていった。
その結果として、古澤隊員は次のような効果を感じている。定住を含めた退任後のことを、自分だけで考えていては後回しにしていた可能性もあり、退任が迫ると焦っていたかもしれない。定期的な面談をすることとで考えが足りていなかったことや自分だけでは思いつかないようなことを具体的にイメージできたこと、そして、それを自身の言葉でしっかり言語化できたところは自分のためにもなった。また、身近な先輩へ気軽に話ができる体制は安心できるものがあった。

今回は、3年目の隊員の退任後に向けたサポートとしてメンター制度を導入したが、地域住人でも地域おこし協力隊の担当課職員でもない、「地域をよく知る第3者」がメンターになることは非常に意味のある事に感じた。地域活動を行う上で、地域に人々のライフスタイルや人間関係を理解していないことは活動への致命傷を負うこともある。こういったことを最小限に抑えるためにも、第3者が隊員の地域での活動や生活を見守りながら、時には相談を受け付け、時には助言する支援体制を構築することは、隊員にとっても、地域に味方がいる安心感にもつながることになる。さらに地域へ残った地域おこし協力隊のOBOGがその役割を担うことで、地域おこし協力隊の内情をよく知りながら、気軽に相談できる関係性も築いていけると同時に、OBOGを通じた地域住人や地域ネットワークへのつながりも持つことができる。
今回は3年目の隊員を対象とし、定住にフォーカスをしてメンター制度を導入したが、任期1~3年のそれぞれの期間でも、この制度を利用すると、活動のモチベーション増加や充実につながり、隊員自身の成長もより明確なものになると考えられる。そして、メンター制度を利用した隊員が退任後に新たにメンターとして、現役隊員へのサポート支援をすることが継続されれば、隊員やOBOG同士のネットワークは強固なものとなり、地域おこし協力隊自身はやりがい増加・行政側は定住者増加・地域住民はともに地域をつくっていく仲間の確保がおこり、地域にとっても良好な状態をつくりあげていけるのではないだろうか。


【松原功】
元 茨城県常陸大宮市地域おこし協力隊。現在は「森」と「わたしたち」のつながりLab. KOPUTA PUUTAの所長とコミュニティスペースおへそのマネージャーに従事。

「自分とつながり、ありのままの自分で、自身の価値を感じて生きていける」をテーマにおへそを共同運営。また、「ホッと一息つける暮らしを、豊かな森林からつくっていく」をテーマに、木材確保のための森づくりとその木材を利用したインテリア製作を行っている。

茨城県北地域おこし協力隊マネジメント事業
3年目隊員サポートのためのネットワーク プログラム


協力隊の定着、関係人口の創出や、協力隊制度を活用する自治体同士の
ネットワークとノウハウづくりを目的としたプログラム。
今回は地域おこし協力隊の任期3年目を迎える隊員、自治体担当者を対象に、課題クリアに向けてサポートに取り組む。

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